建設業法は、建設工事の適正な施工を確保し、建設業の健全な発達を促進することで公共の福祉の増進に寄与するものとして、戦後の復興期に制定され、その後の日本の経済成長や社会の変化に応じて、何度も改正を重ねてきました。
その根底には、建設業界の健全な発展と、公正な取引関係の確保、そして国民の安全を守るという目的があります。そして現在、建設業界は技術革新や働き方の変化に直面しており、建設業法はそれに対応する形で進化しています。
今回は、建設業法制定の目的と改正の変遷について見ていきたいと思います。
建設業法の制定の背景と目的
建設業法の主な改正の変遷
建設業法の制定の背景と目的
日本における建設業法の起源は、1949年(昭和24年)にさかのぼります。当時、日本は戦後の復興期にあり、建設業は国土再建の重要な柱の一つとされていました。
そしてその重要な責務を果たす建設事業の施工は建設業者に負うところが大きいため、建設業者の資質は非常に重要である一方、終戦後においては建設業者が乱立し、経済事情の逼迫に伴う経営難、資金難等により、過当競争によるダンピング受注等の弊害の発生や、代金支払いが適切に行われないといった請負契約の片務性が問題となり、工事の適正な施工が阻害される状況でした。
建設業法は、これらの問題に対処し、建設業界全体の健全な発展を促進するべく、建設業者に登録制や専任の主任技術者を導入し、一定の技術力や財務能力を有する業者が建設工事を請け負えるようにすることで、業界全体の質の向上を図るとともに、元請・下請間の契約関係を適正化し、不公正な取引慣行の是正も図ることを目的に制定されました。
建設業法の主な改正の変遷
建設業法は、社会の変化や経済状況、技術の進展に応じて、建設業界の健全な発展を促進し、国民の安全を守るべく、当時の時代の要請に基づき、改正されてきました。
1961年(昭和36年)改正
当時は、高度経済成長期に入り、公共投資が著しく増加し、建設業の社会的役割が一層重要になってきた一方で、施工能力や資力、信用に問題のある不良業者による粗雑な工事や災害が発生していたため、これを改善する必要がありました。
そこで建設業者の適正な運営を図ることを目的として、現在の一式工事に相当する「総合工事業者」の創設と、のちの経営事項審査制度につながる建設業者の経営に関する事項の審査制度が法制化されました。
1971年(昭和46年)の改正
高度経済成長による日本経済の発展と国民生活の向上に伴い、建設投資は国民総生産の約2割に達し、これを担当する建設業界も、登録者数約14万、従業者数約350万人を数えるに至り、建設業はわが国の重要産業の一つに成長しました。
しかし当時の建設業界は、施工能力、資力、信用に問題のある建設業者による粗雑粗漏工事、各種の労働災害、公衆災害等の発生や公正な競争の阻害により建設業者の倒産の著しい増加を招く状況でした。
そこで経営を近代化し、施工の合理化を達成するという課題解決のために、建設業の許可制度や特定建設業の導入、不当な請負契約の禁止や代金支払い等の下請負保護の規定の改正を行われました。
1987年(昭和62年)の改正
当時の建設業は、需要が低迷する中で競争が激化し、施工能力、資力信用に問題のある建設業者の不当参入などの問題がありました。
そうした問題への対応として建設業法を改正し、特定建設業の許可基準の改正、監理技術者制度の整備、技術検定にかかる指定試験機関制度の導入、経営事項審査制度の見直しが行われました。
2000年(平成12年)の改正
当時、公共工事をめぐり、贈収賄、談合など、各種の事件が多発しており、公共事業そのものに対する国民の信頼が揺らいでおりました。そこで公共工事における受注者の選定等に関して国民の疑惑を招くことのないよう、適正な施工を確保し、そして、良質な社会資本の整備を効率的に推進するため、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)」が制定されました。
建設業法では、この入契法に違反した建設業者に対し、監督処分を行うなどの改正が行われました。
2014年(平成26年)の改正
東日本大震災の復興事業や防災・減災、老朽化対策、耐震化、インフラの維持管理などの担い手として、建設業が果たすべき役割はますます増大する一方、建設投資の急激な減少や競争の激化により、 建設業の経営を取り巻く環境は悪化し、ダンピング受注などにより建設企業の疲弊や下請企業へのしわ寄せ、現場の技能労働者等の就労環境の悪化といった構造的な問題が発生しておりました。また中長期的には、建設工事の担い手が不足することが懸念されておりました。
そこで担い手の育成及び確保に関する責務の追加、維持更新時代の到来に対応した解体工事業の追加、公共工事における施工体制台帳作成の義務化などの改正が行われました。
2019年(令和元年)の改正
近年では、建設業界においても働き方改革の促進や、建設現場の生産性向上、持続可能な事業環境が求められております。
そうした課題に対し、建設業法の改正を行い、工期の適正化による長時間労働の是正や建設業許可基準に社会保険加入を要件化による現場処遇改善、元請の監理技術者にかかる補佐制度創設や一定要件を満たす場合の下請の主任技術者の不要化による建設現場の生産性向上、経営業務管理責任者要件の規制見直しによる持続可能な事業環境の確保などを推進することとなりました。
まとめ
2024年6月には、建設業が「地域の守り手」等の役割を果たしていけるよう、さらに処遇改善や働き方改革、生産性向上に取り組んでいくものとして、新たに改正されました。そして建設業法は、戦後の復興期から始まり、日本の経済成長や社会の変化に応じて、何度も改正を重ね、今後もそれに対応する形で進化し続けていくものと思われます。
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