今年6月に成立した第三次 担い手3法は、9月に大臣の調査権限付与や労務費基準の中建審作成権限が、12月13日に価格転嫁協議の円滑化ルール、ICT活用による現場管理の効率化、現場技術者専任義務の合理化が施行された。また1年後には著しく低い労務費等の禁止、受注者による原価割れ契約の禁止 、工期ダンピング対策の強化などが施行される予定である。
この担い手3法は、平成26年に施行され、建設業界が抱えるさまざまな構造的な課題への対応として重要な役割を果たしてきた。そこで今回は、担い手3法についてこれまで行われてきた施策と、第三次改正の内容を確認していくことにする。
担い手3法とは
品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)
公共工事の品質確保に関する国、地方公共団体、受注者等の責務、品質確保のための基本理念、基本方針を明記し、受注者の技術的能力の審査等を義務付けることにより、品質確保促進を図る
建設業法
建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによつて、建設工事の適正な施工を確保し、発注者および下請けの建設業者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もって公共の福祉の増進に寄与する
入契法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)
公共工事の入札および契約について、その適正化の基本となるべき事項を定めるとともに、情報の公表、不正行為等に対する措置および施工体制の適正化の措置を講じ、併せて適正化指針の策定等の制度を整備すること等により、公共工事に対する国民の信頼の確保とこれを請け負う建設業の健全な発達を図る
平成26年 担い手3法
当時の建設業界は、平成23年の東日本大震災に係る復興事業や防災・減災や老朽化対策など、果たすべき役割が増大する一方、競争の激化によるダンピング受注等による厳しい経営環境から、現場の技能労働者の高齢化や若年入職者は減少し、維持更新時代の到来に伴い、解体工事の施工実態が変わってきたことから、将来にわたる建設工事の適正な施工及び品質と、担い手の育成・確保のため、品確法・建設業法・入契法(いわゆる担い手3法)を改正し、課題解決を図ることになった。
品確法は、主に公共事業における発注者側の責務として、将来にわたる公共工事の品質確保とその中長期的な担い手の確保、ダンピング防止等を基本理念に追加し、適正な予定価格の設定や、事業の特性等に応じた入札方式の活用などが規定された。
建設業法は、担い手の育成・確保の推進と解体工事業を新設、入契法は、ダンピング対策の強化のために入札の際に入札金額の内訳を提出し、発注者による確認を行うこと、施工体制台帳の作成・提出義務をすべての公共工事に拡大し、発注者による施工体制の把握の徹底を図ることが新たに規定された。
令和元年 新・担い手3法
平成26年施行の「担い手3法」により、 予定価格の適正な設定、歩切りの根絶、ダンピング対策の強化などの成果が見られた一方、相次ぐ災害を受け「地域の守り手」としての建設業への期待、働き方改革促進による建設業の長時間労働の是正、生産性の向上など、新たな課題等への対応が求められたことから、「新・担い手3法」として、再び改正されることになった。以下は建設業法や入契法に関する主な改正点である。
働き方改革の推進
工期の適正化:
中央建設業審議会による工期に関する基準の作成・勧告、著しく短い工期による請負契約の締結を禁止(違反者は国交大臣等による勧告・公表)、公共工事の発注者に対する必要な工期の確保と施工時期平準化の措置を講ずることを努力義務化
現場の処遇改善:
社会保険の加入を許可の要件とすること、下請代金のうち、労務費相当分は現金払いとすること
※品確法は、発注者の責務として休日や準備期間、天候等を考慮した適正な工期の設定や施工時期の平準化等に資する債務負担行為や繰越明許費の活用などの予算措置が、下請けを含む受注者の責務として適正な工期と請負代金での契約締結が規定された。
生産性向上への取り組み
技術者に関する規制の合理化:
監理技術者を補佐する者(技士補)を配置する場合、2現場の兼任を容認、主任技術者(下請)については一定の要件を満たす場合、配置を不要とした
災害時の緊急対応充実強化
建設業者団体について、災害時の建設業者や地方公共団体等との連携を努力義務化
※品確法は、発注者の責務として、緊急性に応じた随意契約・指名競争入札等の適切な入札・契約方式の選択、災害協定の締結、労災補償に必要な保険契約の保険料等の予定価格への反映等が規定された。
持続可能な事業環境の確保
経営業務の管理責任者の要件を、建設業経営に関し過去5年以上の経験者が役員から、事業者全体として適切な経営管理責任体制に見直し、円滑な合併・事業譲渡等に資する事前認可の手続を規定
令和6年 第三次担い手3法
平成26年以降の10年間で建設工事の適正な施工及び品質の確保とその担い手の確保について様々な成果は得られたが、厳しい就労条件を背景に、依然として就業者の減少が著しく、建設業がその重要な役割を将来にわたって果たし続けられるようにするためには、現場の担い手の確保に向けた更なる対策強化が課題となっていた。そこで「第三次・担い手3法」では、持続可能な建設業の実現と、そのために必要な担い手の確保を推進することを目的に改正されることになった。以下は建設業法や入契法に関する主な改正点である。
担い手確保
請負契約の書面化義務事項(15項目)への追加(R6年12月施行)
請負工事の書面記載事項に、価格等の変動または変更に基づく請負代金額の算定方法に関する定め等を追加すること
出典:国土交通省HP『第3次・担い手3法について』
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001760946.pdf
工期等に影響を及ぼす事象に関する建設業者の通知(R6年12月施行)
契約前の時点で、主要な資材の供給の著しい減少や価格高騰などによる工期や請負代金に影響を及ぼすリスクがあるときは注文者に通知することを義務化
契約締結後、上記通知に係る事象が発生した場合、注文者に対して工事内容または請負代金額の変更を申し出ることができる(当該協議の申出を受けた注文者は、正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応じなければならない)
建設工事の労務費に関する基準の作成等(R6年9月施行)
中央建設業審議会(中建審)は、建設工事の労務費に関する基準を作成し、その実施を勧告することができることとなった。今後、労務費の基準は今後中央建設業審議会にWGを設置し、作成の検討が行われる予定
出典:国土交通省HP『第3次・担い手3法について』
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001760946.pdf
建設業者による著しく短い工期による請負契約締結の禁止(R7年12月施行)
受注者は、技能労働者の長時間労働を抑制するため、通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならないとされた
建設業者による著しく低い額の見積及び不当に低い請負代金による契約締結の禁止(R7年12月施行)
受注者は工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費及びその他必要な経費などの内訳等を記載した材料費等記載見積書の作成に努め、これらの費用の額は、通常必要と認められる額を著しく下回るものであってはならない。また注文者からの請求に従い、請負契約が成立するまでに当該材料費等記載見積書を交付しなければならないとされている。
一方、注文者に関しては、請負契約の締結にあたり、材料費等記載見積書の考慮に努めることとなっており、材料費等記載見積書を交付した受注者に対し、著しく下回ることとなるような変更を求めてはならず、これに違反して請負契約を締結した場合、国交大臣等による勧告等を受けることがある。受注者は、自らが保有する低廉な資材を建設工事に用いることができること等の正当な理由がある場合を除き、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない
※通常認められる原価とは、材料費(物価本による市場価格)、労務費(中建審が作成・勧告する「労務費の基準」)、同種工事等の実績から算定されるその他の費用
労働者の適切な処遇の確保と国土交通大臣による調査(R6年9,12月施行)
受注者は、その技能労働者が有する知識、技能その他の能力についての公正な評価に基づく適正な賃金の支払その他の労働者の適切な処遇を確保するための措置の効果的な実施に努める(R6年12月施行)
国土交通大臣は、建設業者に対して、建設工事の請負契約の締結の状況、工期等に影響に関する通知または協議の状況、上記にかかる措置の実施状況等の事項について調査し、必要に応じて指導や立ち入り検査が行い、その結果を公表することとなっている。現時点において、まずは国土交通省直轄工事にて試行的に調査が実施され、調査方法や公表のあり方の検討が行われるとのことであり、その結果を踏まえて今後、段階的に拡大されていく見通しである。(R6年9月施行)
生産性の向上
営業所技術者等に関する監理技術者等の職務の特例(R6年12月施行)
建設業者は、工事現場ごとに監理技術者等を専任で置くべき建設工事について、その営業所の営業所技術者等が当該営業所及び当該建設工事の工事現場の状況の確認等の職務を情報通信技術の利用により行うため必要な措置が講じられる等の要件に該当する場合には、当該営業所技術者等に1現場まで監理技術者等の職務を兼ねて行わせることができる 。
出典:国土交通省HP『第3次・担い手3法について』
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001760946.pdf
監理技術者等の専任義務の緩和(R6年12月施行)
工事現場ごとに主任技術者又は監理技術者(監理技術者等という)を専任で置くべき建設工事について、監理技術者等が当該建設工事の工事現場の状況の確認等の職務を情報通信技術の利用により行うため必要な措置が講じられる等の要件に該当する場合には、当該監理技術者等の専任を要しない、または2現場までの兼任が可能
専任不要の上限額引き上げ(適用済み):
請負代金3500万円以上➡4000万円以上 (建築一式7000万円以上➡8000万円以上)
兼任を可能とするケースの新設(専任特例1号):
以下の要件を満たす、請負代金1億円(建築一式2億円)以下を対象
工事現場間の距離が、一日で巡回可能かつ移動時間が概ね2時間以内
各建設工事の下請次数が3次まで
監理技術者等との連絡その他必要な措置を講ずるための者(土木一式工事又は建築一式工事の場合は、当該建設工事の種類に関する実務経験を1年以上有する者)の配置
工事現場の施工体制を確認できる情報通信技術の措置
人員の配置を示す計画書の作成、現場据置及び保存(電磁的記録媒体による作成等を含む。)
工事現場以外の場所から現場状況を確認するための情報通信機器の設置
出典:国土交通省HP『第3次・担い手3法について』
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001760946.pdf
なお監理技術者補佐を配置する従来の対応を専任特例2号という
情報通信技術を活用した建設工事の適正な施工の確保(R6年12月施行)
特定建設業者及び公共工事の受注者は、国土交通大臣が作成・公表する「指針」に基づき、工事の施工の管理に関する情報システムの整備等の建設工事の適正な施工を確保するために必要な情報通信技術の活用に関し必要な措置を講ずるよう努めるとともに、発注者から直接建設工事を請け負った場合、当該建設工事の下請負人が必要な措置を講ずることができるよう指導に努めること
情報通信技術を利用した公共工事における施工体制台帳の写しの提出義務の緩和(R6年12月施行)
公共工事の受注者は、工事現場の施工体制を発注者が情報通信技術を利用する方法により確認できる措置(建設キャリアアップシステムの利用など)を講じた場合、発注者への施工体制台帳の写しの提出を要しない。
出典:国土交通省HP『第3次・担い手3法について』
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001760946.pdf
また物価高騰や人件費の高騰に伴い、建設業の各種金額要件についても見直されることとなった(R7年2月施工)
出典:国土交通省HP『R6.12.6 プレスリリース』https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001847369.pdf
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