
1. 防衛産業の重要性と課題
日本の防衛産業は、装備品の研究開発から生産,維持整備,補給,用途廃止までのライフサイクル全体を担い,自衛隊の運用に不可欠な存在です。しかし近年,以下のような課題が顕在化しています。
企業の防衛事業からの撤退や縮小:市場の縮小や収益性の低下により,防衛産業から撤退する企業が増加し,基盤の弱体化が進んでいます。
サプライチェーンの脆弱性:新型コロナウイルスの感染拡大や国際的な輸出規制により,原材料や部品の供給が不安定になっています。
サイバーセキュリティの脅威:サイバー攻撃による情報漏洩やシステム障害のリスクが高まっています。
これらの課題に対応し,防衛産業の基盤を強化するため,防衛生産基盤強化法が制定され,この法律に基づき「装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する基本的な方針」が定められ,各施策が推進されています。
2. 主要施策の概要
2.1 装備品安定製造等確保事業
指定装備品等の製造を行う事業者が,防衛生産基盤強化法に基づき,その安定的な製造等を確保するための取組(特定取組)に係る計画(装備品安定製造等確保計画)を作成,防衛大臣の認定を受けることで,特定取組に必要な経費を国から受けることができます。

防衛装備庁HP「装備品安定製造等確保計画認定申請 募集要項」より
https://www.mod.go.jp/atla/hourei/hourei_dpb/02_kyoka_boshuyoko_antei_r070507.pdf
2.2 装備移転円滑化措置
当該措置は,外交・防衛政策上の重要な政策ツールである装備移転を官民一体となって進めるとともに,装備移転を円滑に実施するための制度です。
企業は防衛大臣の求めに応じて装備移転仕様等調整計画を提出し、防衛大臣の認定を受けた場合、装備移転仕様等調整に必要な資金が助成されます。

防衛装備庁HP「装備品安定製造等確保計画認定申請 募集要項」より
https://www.mod.go.jp/atla/hourei/hourei_dpb/02_kyoka_boshuyoko_antei_r070507.pdf
2.3 資金の貸付け
装備品等の製造等や装備移転を行おうとする中小・小規模事業者は,資金を借り入れたい事業の計画を防衛大臣に提出し,認定を受けることで,日本政策金融公庫・沖縄振興開発金融公庫による特別貸付制度の対象者となることができます。
2.4 装備品等契約における秘密の保全措置
装備品等の機微情報の保全強化のため,契約事業者は防衛省から秘密情報を提供する際,「装備品等秘密」の指定を受け,法律上の守秘義務が課されることになります。
2.5 製造施設等の国による保有
他の措置を講じてもなお,装備品等の製造等を確保するために必要な場合,国が製造施設等を取得し,事業者に管理を委託することができます。
3. まとめ
防衛生産基盤強化法は,前項に示す各施策のほか,サプライチェーン調査を通じて,防衛産業の現状や課題を把握し,必要な支援策を講じることで,日本の防衛産業の基盤を強化し、装備品等の安定的な製造・供給体制を確保するために重要な法律です。
今後も防衛装備庁を中心に,関係機関や事業者と連携しながら,防衛生産基盤の強化に取り組んでいくことが求められます。
装備品安定製造等確保事業につきましては,別のコラムで深く掘り下げて見ていきたいと思いますので,そちらをご参照ください。
また日本政策金融公庫の特別貸付制度についてご関心のある方は,こちらの窓口までご相談ください。