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防衛装備品の生産基盤強化について

2025-05-13 16:48:37
2025-05-18 13:19:22
目次

はじめに

令和4年12月に策定された国家安全保障戦略,国家防衛戦略,防衛力整備計画において,防衛生産・技術基盤は「防衛力そのもの」と位置づけられ,その強化が喫緊の課題とされました。これを受けて令和5年6月に「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律」(防衛生産基盤強化法)が成立し,同法第3条に基づき,平成26年の「防衛生産・技術基盤戦略」に代わる新たな指針として,基盤の維持・強化の方向性を示す「装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する基本的な方針」が定められました。

1.基本的な事項

1.1 我が国を含む国際社会の安全保障環境

国際社会は、ロシアによるウクライナ侵略,中国の軍事力増強と東シナ海・南シナ海での現状変更の試み,北朝鮮の核・ミサイル開発など,深刻な安全保障上の挑戦に直面しています。またサイバー攻撃や偽情報の拡散,気候変動など非伝統的な安全保障課題も顕在化しています。

1.2 装備品等に係る技術の進展の動向

AI,情報通信技術,量子技術,積層製造技術,極超音速滑空兵器,高出力エネルギー兵器など,先端技術の進展が安全保障の在り方を大きく変えています。民生技術と軍事技術の境界が曖昧になり,迅速な技術革新への対応が求められています。

1.3 基盤を取り巻く環境

防衛産業はその重要性が高まっている一方で,収益性の低さや投資回収の見通しの難しさ,レピュテーションリスクなどから防衛事業からの撤退や新規参入の停滞が進んでいます。またサイバー攻撃や外国政府による輸出規制など,サプライチェーンを取り巻くリスクも顕在化しています。

2.基盤の維持・強化に関する基本的な考え方

2.1 基本的な考え方と方向性

防衛産業は防衛力の中核を担う存在であり,その維持・強化は国の安全保障に直結します。国は装備品等の安定的な製造等の確保を図るため,完成品を納めるプライム企業のほか,部品や構成品等を納める多数のサプライヤも含めた装備品全体のサプライチェーンを対象に,幅広く国内に維持・強化することが必要になっています。
また装備品の取得にあたっては,機能や性能,コスト,取得スケジュール等の諸条件を満たすもの,有事における継戦能力や平素からの改善能力の確保の観点から不可欠なもの,機密保持の観点から外国に依存すべきでないもの等の分野における国産化や,技術移転による技術力向上等の観点から国際共同開発・生産あるいはライセンス国産が追求されます。

2.2 国及び装備品製造等事業者の役割

国は,防衛産業が防衛事業に携わり,継続するに足る環境を整えることを重視しております。そこで装備品製造等事業者は自らが国防を担う重要な存在であるとの認識を持ち,防衛力整備・運用の構想等について共通の認識に立って,相互の役割を分担して果たすことで,基盤の維持・強化に主体的に取り組むことを期待されています。

3.本法に基づく措置に関する基本的な事項

3.1 装備品製造等事業者に対する財政上等の措置

防衛大臣は装備品製造等事業者が提出する「装備品安定製造等確保計画」を認定し,供給網強靱化,製造工程効率化,サイバーセキュリティ強化,事業承継等の特定取組に対して補助金や特別貸付などの財政上の措置を講じます。
本施策の詳細はコチラをご参照ください。

3.2 装備移転の円滑化と装備移転支援法人

装備品等の海外移転に際して,適切な管理の下で円滑に行われるよう,装備移転支援業務や基金の活用などの措置を講じられています。また装備移転支援法人は,装備移転支援業務や基金の管理運営を通じて,装備移転の支援を行うこととなっています。

3.3 装備品等契約の秘密保全措置

装備品等契約においては機微情報の漏洩を防止するため,秘密の保全措置を講じます。具体的には省秘を含む文書等を事業者に提供する場合,「装備品等秘密」の指定を行い, これまでの契約上の守秘義務 に加え,法律上の守秘義務が課されることで,防衛省及び事業者ともに情報管理の徹底が図られることになります。

3.4 指定装備品製造施設等の取得等

装備品等の安定的な製造等の確保のため,必要に応じて防衛大臣が指定装備品製造施設等を取得し,その管理を装備品製造等事業者に委託することができます。

4. 基盤の維持・強化に関するその他の必要な事項

基盤の維持・強化に関するその他の措置として,適正な利益算定等による防衛事業の魅力化や技術優位を確保するためのイノベーションの促進,新規参入促進による防衛産業の活性化など,さまざまな施策が進められています。

まとめ

本基本方針は,防衛生産・技術基盤の維持・強化を通じて,装備品等の安定的な製造等の確保を図り,防衛力の整備や自衛隊の任務遂行を円滑かつ確実なものとすることを目的としています。これにより我が国の平和と独立を守り,国の安全を保つことに寄与することが期待されます。
そして防衛生産・技術基盤は「防衛力そのもの」と位置づけられ,これはプライム企業のみならずサプライヤーも含めた装備品等のサプライチェーン全体が対象となっております。
よってこれまで防衛省や防衛装備庁と直接契約をする機会がなかった事業者にとっても,本方針に基づく各種施策について把握しておくことは,これからの事業運営にとって大変有益なものになるといえます。

この記事を書いた人

yushikurasono